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24.今熊野、郭公の名所

Source:『拾遺都名所図会』巻二

 郭公(時鳥ともいいます)は夏を告げる鳥で、梅雨の頃にその声を聞くことができました。絵の上部の賛は、

 五月雨の月はつれなきみ山より ひとりもいづる郭公かな
という、『新古今和歌集』の藤原定家の和歌です。梅雨の期間は月を見ることができなくても、郭公の声がその情緒を味あわせてくれるのだと詠んでいます。
 新熊野社(現在の今熊野神社)の東南に広がる林間に剣宮があります。ここが郭公の名所であったこと、『都名所図会』の本文に記載されています。定家の和歌には月は出てこなかったと詠まれていますが、江戸時代のこの付近では「文人墨客一声の初音を聞きて千声に誇り伝へんと、あくがれ来たりて暁の月にあへる」機会が多かったといいます。
 絵は、軒先で縄をないながら近所の人と話をする地元の人に、男女3人のグループが道を尋ねているところ。左手前に流れている小川はここのところの長雨に増水してしまっています。この3人は、梅雨の悪天候には辟易しているものの、せめて郭公の声でも聞こうとこの付近までやってきたのです。なかなかの風流人。この悪天候を過ぎれば盛夏がやってくることを想い、啼く郭公に、我が身をシンクロナイズさせるのでしょう。
 「剣宮はどっちになりますやろうか」、「この道を真っ直ぐ行ったとこや」。道を教わり、一行は心なしか嬉しそう。もうすぐ「テッペンカケタカ」の声を聞くことができるのです。

From:Yuki NISHINO