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29.顔見世の賑わい

Source:『都林泉名勝図会』巻一之坤

~顔見世~

 京都の南座の顔見世興行は、現在では12月の1日から26日まで行われています。江戸時代、芝居の関係者は11月から翌年10月まで、1年間の契約でしたから、11月の初旬に新年度の役者のお披露目を行います。これを「顔見世」や「面見世」などと呼んだことにちなむといいます。
 絵の左手前に櫓があり、大きな提灯に「顔見世」の文字。これが現在の南座です。つまり、この絵は南東の方角からの視線で描かれたもので、炭俵が堆く積まれているのは北向かいにある芝居茶屋、ということになります。炭俵の他にも、尾頭付きの鯛や鶴、伊勢海老など、それぞれの贔屓客からの差し入れが見えます。
 国学者、橋本経亮の『橘窓自語』には以下のように記されています。

京都四条縄手戯場に、毎冬芸者ども顔見世といふことをする時、手打とて意気のもの打むれて、手うちほむることあり。其人どもを笹瀬連中といへりしは、延享四年大坂戯場にて、笹屋五兵衛、瀬戸物屋伝兵衛といひしものゝ、手打はじめし故に、笹瀬の名出来り、そののちさこ場、大手、大笹、千とせ、藤石などいふもいできたり、皆浪花より起る名なり。
 これによると、顔見世にやってくる贔屓客を笹瀬連中と呼んでいたのは、大坂の道頓堀五座の影響なのだとあります。『摂津名所図会』に載る道頓堀の顔見世を描いた挿絵には、この笹瀬連中で賑わう芝居茶屋の様子が描かれています。

From:Yuki NISHINO